白い綺麗なボールを載せて
一等から十等まで賞が出ている。これなら楽しみが多いことであろう。賞品は次の日曜日に渡しますとある。人間いくら年をとっても時には子供時代の喜びを復活させる希望を捨てなくてもいいのである。M夫人が到着したのでそろそろ出掛ける。
一体の地面よりは一段高い芝生の上に小さな猪口の底を抜いて俯伏せにしたような円錐形の台を置いて、その上にあの白い綺麗なボールを載せておいて、それをあのクラブの頭でひっぱたくと一種独特の愉快な音がする。飛んで行った球がもう下り始めるかと思う頃に却ってのし上がって行ってそれから落ちることがある。
夫人の球が時々途中から右の方へカーブを描く。球がそれて土手の斜面に落ちると罰金だそうである。河畔のあしの中でしきりに葭切よしきりが鳴いている。草原にはわいしょうなきょうちくとうがただ一輪真赤に咲いている。綺麗に刈りならした芝生の中に立って正に打出されようとする白い球を凝視していると芝生全体が自分をのせて空中にうかんでいるような気がしてくる。日射病の兆候でもないらしい。
全く何も比較の尺度のない一様な緑の視界はわれわれの空間に対する感官を無能にするらしい。途中から文科のN君が一緒になった。三人のプレイがしろうとめに見てもそれぞれちゃんとはっきりした特徴があって面白い。

